LOGIN「我を消すだと? 悪魔は不死の存在だ。殺せるわけがないだろ」
ディアブロは、思わず人間の戯言にムキになりツッコミを入れてしまい、慌てて平静を装った。
それを聞いたレイニーがムスッとした表情で頬を膨らませ、面倒くさそうに説明を始めた。
「だーかーらー消すって言ったでしょ? 殺せなくてもさぁー存在そのものを、この世界から消しちゃえば良いんじゃないっ? たとえばさぁ〜異次元に閉じ込めちゃったりすれば、どーなるだろうねぇ〜? 興味ない? どうなっちゃうんだろうね……? この世界から存在は消えちゃうよね。でも、他の次元では生きてるの。それって面白い実験じゃない? キミも興味あるでしょ? ね、面白そうだよね~えへっ♪」
レイニーが言い終わると、ニコッと微笑み、ディアブロを実験動物を見るような眼差しで見つめた。その目は好奇心で輝き、まるで悪魔が人間で遊ぶ時の眼差しと同じだった。ディアブロは、この状況に焦り、状況が完全に立場が入れ替わっていることに気づいた。
だが、人間の子供が異次元だと? 高度な空間魔法の上位である、さらに上位の異次元魔法を使えるわけが……ないだろ。
「は? 人間の貴様が、異空間魔法を使える訳がなかろう。魔族や悪魔などの上位種でも使える者が少ないのだぞ」
まるで使えるような話し方をするので、ディアブロは真面目に説明をした。どれほど異次元魔法が難しいのかを、その顔に焦りをにじませながら語った。
「あはは。はい、ざんねーん。俺、色々と頑張って練習したからさぁ……使えるようになっちゃったんだぁ〜♪ ほらぁ」
レイニーは、書庫で魔法の勉強と、ガードナーとの魔法の練習とアドバイスを受け、知識を教えられ、上達とはいえないほど格段に知識、魔力、種類が爆発的に増えていた。まさにチート能力といえる知識の吸収力だった。もともとアニメやゲームで知識があったし、イメージできれば問題がなかった。基礎と常識を教わり、あとは好奇心と実験を密かに繰り返していたのだ。
そして今回の、貴重な不死という存在の実験材料が目の前に現れた。見過ごせるわけがない。
何をしても死なない存在……好奇心が湧いてくるでしょ♪
「キミ、不死でしょ? それがね〜かなり災いする空間なんだよねぇ……永遠と地獄の苦しみを味わうんじゃないかなぁ〜。耐えられなくて、死んで終らせたくても終らない苦しみを……味わいたいかなぁ?」
♢異次元空間の顕現レイニーが手のひらを上に向けると、スッと空間に黒い球体のような穴が現れた。それは、異次元魔法によって作り出された、まさしく空間の裂け目だ。周囲の光を全て吸い込むかのような漆黒の闇に覆われたその表面は、見つめるだけで心の奥底に深い恐怖が広がる。球体の中には無数の小さな渦が巻き起こり、時折、異次元の生物や謎めいた影がちらつく様子が垣間見えた。
球体が発する冷たい波動は、肌を刺すような寒気を感じさせ、近づく者の魂まで凍らせるかのようだ。その中心からは、低く唸るような音が響き渡り、まるで異次元の獣が遠吠えするかのように感じられる。
この黒い球体が放つ邪悪なエネルギーは、空間自体を歪ませ、周囲の物体をゆっくりと引き寄せる強力な引力を持っている。まるで存在そのものを呑み込もうとするかのように、黒い球体は全てを無に帰す力を秘め、ディアブロの心の底から恐怖が溢れ出してきた。
「あれは……異空間魔法ではないじゃないか。あれは、まさしく異次元空間だぞ……。しかも、我が知っている異空間魔法とは次元が違うぞ!? 異空間魔法ならば……世界は存在しているはずだが……。その上位の異次元魔法は漆黒が広がる世界ではなく、完全に無の空間……閉じ込められれば永遠と存在するのみではないか……」
ディアブロは心の中で呟き、冷たい汗が背中を伝うのを感じた。あの子供が言うように、もしあそこへ閉じ込められたら、アイツが解放してくれるまで二度と出てこれなくなる。これは危険な存在だ。封印は劣化するが、異次元空間は劣化しない。しかも不死の存在である自分が閉じ込められたならば、文字通り異次元空間の無の空間で永遠に……想像するだけでゾッとした。
♢ディアブロの動揺「ね? 大人しくしてなよ〜」
レイニーが、黒い球体をスッと消しながら、満面の笑顔で言った。その無邪気な笑顔が、ディアブロには悪魔の嘲笑のように見えた。
「そ、それで……どうすれば良いんだ?」
ディアブロは、苛立ちと恐怖を必死に押し隠しながら尋ねた。心臓が早鐘を打っているのが自分でも分かる。
「大人しくしててね。俺、お腹すいちゃってさぁ〜。ちょっとご飯食べてくるよっ」
レイニーは、お腹に手を当てて気まずそうに、まるで子供のように言った。
「そうか、大人しくしてれば良いんだな」
ディアブロは、これがラストチャンスだと判断し、焦りを抑えながら冷静を装った。
「あ、逃げ出そうとしても無駄だからねっ♪」
レイニーの無邪気な言葉に、ディアブロの背中に冷たい汗が流れ落ちた。
「大人しく殺されなさい……」 ダイモンが冷たく囁くように言うと、エリゼが抵抗し動いたからか頬から血がにじみ出てきた。その赤い雫は、レイニーの視界を真っ赤に染めた。 エリゼを傷つけられたという、怒りの感情が溢れ出し、レイニーはエリゼに改めて完全遮断の結界を張った。この結界はこの世界と切り離されているので周りで何が起きようが影響を受けない。だが、何が起きているのか見えず、聞こえず、閉じ込められた感じになってしまう。空間の中に外の風景を投影してストレス軽減をしておいた。レイニーの心には、エリゼへの深い愛情と、ダイモンへの激しい怒りが渦巻いていた。 エリゼの傷は回復魔法が効かないと言っていたので、レイニーのスキルのイメージで治療した。回復ではなく、イメージで元の状態を復元した感じで、治すのとは違う。エリゼの頬の傷は、みるみるうちに消えていった。 さて、コイツをどうしよう……? 大切な仲間のエリゼを傷付けた大罪人を。背負われていたあーちゃんが、いつの間にか擬態を解き、ディアブロの姿で現れていた。その漆黒の翼は、闇の中で静かに広がる。「主よ……どうか怒りをお沈め下さい」 現れたディアブロが怯えた様子で跪いてきた。その声は、震え、レイニーの放つ怒りのオーラに怯えているようだ。「なんでさ? 仲間を傷付けられて許せるわけ無いでしょ。なに? 同族が殺されるのが嫌なわけ?」 レイニーは、ムスッとした表情をしてディアブロに言った。俺の仲間が傷つけられて許せっていうの? それで、自分の同族はゆるせって? あり得ないしっ。レイニーの言葉には、ディアブロへの不満と、エリゼへの強い庇護欲が込められている。「あんなヤツは、どうでもいいですが……。その力で攻撃は……マズイです。辺りが滅びます」 ん!? あ、同族をかばう気はないらしい。『あんなヤツ』とか言ってるし。ディアブロの言葉に、レイニーは少し驚いた。「ん? ディアブロには関係ないことじゃないの? 不死なんだろ?」「
『気配を消すってことはさぁ、知能が高くて力もあるってことだよね? 普通の魔物じゃないってことかな……』『一応、気をつけてくださいね……でも、レイニー様なら大丈夫だと思いますけど!』 随分と、過剰評価をしてくれてるけど、俺はこの世界に来たばかりで……不安なんですけど。レイニーは、あーちゃんの言葉に内心でツッコミを入れた。♢悪魔子爵ダイモン 近辺の探索をすると、遺跡のような場所を発見した。そこには小さな祭壇があり、その祭壇には祀られているのか封印されているのかは不明な場所があったが、それが開けられていた。その光景は、レイニーの好奇心を刺激し、同時に不穏な予感ももたらした。 あぁ……ここで何かをしていたのか〜? うぅーん……気配の性質が魔物ではなく、遥かに知能が高い……。それに悪意を感じるという事はぁ〜……悪巧みをしてるってことかぁ〜。レイニーは、その場の状況を推測した。 気配を消してもバレバレなんだけどね、悪意に害意と殺意を感じるし。レイニーは、相手の意図を完全に読み取っていた。「あのさぁ〜ここで、なにをしてたのかな〜?」 レイニーは、殺意のある方へ声を掛けた。その声は、どこか挑発的だ。 祭壇の陰からディアブロとは違い、人型で角が生えていかにも悪魔という者が現れた。雰囲気とオーラの感じからしてディアブロの放つ悪魔のオーラをまとっていた。その姿は銀色の長髪が光を受けてキラキラと輝き、深紅の瞳が鋭い光を放つ。高級感あふれる黒と金の貴族衣装は、歩くたびに優雅に揺れ、豪華な装飾が一層彼の威厳を際立たせている。浅黒い肌には冷たい光が反射し、頭に生えた曲がった角が漆黒に光る。まさに高貴な悪魔の子爵といった風貌だ。その存在感は、見る者を圧倒する。 その悪魔が一瞬の沈黙を破り、低く冷ややかな声で話し始めた。「……全く、見て見ぬふりをしてその場を離れてくれればよかったのに&he
気を良くして洞窟の奥に足を進めていくと、数匹のゴブリンに遭遇した。前方に現れると横穴からも現れて完全に囲まれた。まあ、知ってたけど……。レイニーは、ゴブリンの存在を事前に察知していた。 ゴブリンもこん棒を手に持ち、襲い掛かってくる。まるで軍に入りたての少年兵の様な大振りで、隙だらけで簡単に避けられるし、倒せる。レイニーは、初めての剣術を使いゴブリンの首を斬り落とした。その剣は、正確にゴブリンの急所を捉えた。 エリゼが実戦を見て、血や首を切り落としたところを見て引いてると思いきや……「うん。今度は、キレイな剣術だったよ♪ さすが、お父さんが認めるだけあるねっ」 エリゼは、ニコニコの笑顔で誉められた。人型の魔物でも抵抗がなさそうだね? 俺は少し抵抗があるんだけどなぁ……。レイニーは、エリゼの順応性に驚きつつ、自身の内心の葛藤を感じていた。♢地下湖と古びた扉 さらに洞窟の奥に進むと、小さな地下湖が現れた。その水面は薄い霧がかかっており、松明の光が反射して幻想的な光景を作り出している。幻想的で不気味にも感じる光景で、息を呑む雰囲気だった。その美しさと不穏さが混在する空気は、レイニーの心を掴んだ。「わぁ……キレイだけど……不気味だね」 エリゼも同じ事を感じていたみたい。その声には、驚きと、わずかな恐れが混じっている。「うん。幻想的でキレイだけど、魔物が現れそうな感じがするね〜」 レイニーは、警戒しながら呟いた。 湖のほとりを見渡すと、冒険者たちが置き去りにした古びた装備や道具が見え、ここが多くの者にとっての休息の場でもあったことがうかがえるし、ここで襲われたとも考えられる。休憩をしているところを襲われ、荷物や装備品をそのままに逃げたのかもね……。その光景は、過去の出来事をレイニーに想像させた。「冒険者の装備品が、不気味に見えるね〜。周りに魔物の気配は無いけど、気を付けないとね」 レイニー
その岩の割れ方は、まるで誰かが強大な力で割ったようだった。こんなパワーを持つ人間を見たことも聞いたこともない。もし、そんな人間がいたら軍が見逃さずにスカウトしているだろうし。それか、冒険者の中にいるのかもしれない。レイニーは、その圧倒的な力に想像を巡らせた。「ここから入れそうだよ?」 エリゼがニコッと言ってきた。さすが、冒険者志望だね。しかも責任回避をして俺に行かせようとしているしぃー。俺なら何でも許されると思っているのか? 今のところは許されているけどさ〜♪ レイニーは、エリゼの行動に、面白さと、わずかな呆れを感じた。 まあ、こんな面白そうな所を見つけたら、誘われなくても行くでしょ。「一緒に行く?」 レイニーは、エリゼならついてくると分かってて笑顔で聞いた。「……うぅ……こんな所で、わたしを一人にするの?」 エリゼがレイニーの服をそっと掴み、不安そうに見つめてきた。その瞳には、心細さが滲んでいる。「エリゼなら大丈夫じゃない?」 レイニーは、エリゼの反応が可愛くて……ついついイジワルなことを言ってしまう。「いやぁ。大丈夫じゃなーい。一緒に行くぅー!」 可愛い頬を膨らませたエリゼが言ってきた。「だよねぇ〜」「うん♪」 二人で顔を見合わせて頷き、ニコッと笑った。このパーティでは、エリゼが止める役だったが、俺と一緒にいることで影響を受けてしまっていて、今では止める人がいないので危ないかもしれないな。レイニーは、今後のエリゼとの冒険に、若干の不安と、それでも期待を抱いた。♢洞窟の探索 洞窟に足を踏み入れると、まず湿った空気が肌にまとわりついてくる。冷たく湿った石の壁には、所々に苔が生え、ゆっくりと滴り落ちる水滴の音が洞窟内に響き渡る。洞窟内は薄暗く、アイテムボックスから取り出した松明の明かりがぼんやりと前方を照らす。壁に空いた亀裂や足元の不規則な石の配列が、ここが自然の力でできたものであることを物語っていた。その光景は、
軽食を摂り、少し元気が出たのでアイテムボックスから剣を取り出しエリゼにも渡した。実力は少年兵よりは高いから、少しは頼りになると思う。……お遊び程度の魔物しかでてこないと思うけど。この辺りの魔物の反応が、低級の魔物の反応しか無いし。これなら二人で楽しみながら山頂に向かえるかなっ。レイニーは、山の気配を探索し、状況を判断した。「さー、出発しよー♪」「はぁいっ!」 エリゼは、元気いっぱいに返事をした。 小さい魔物が現れると、二人で顔を見合わせてニヤッと笑った。「どうする? エリゼも戦いたいんじゃない?」「わたしに倒せるかなぁ〜?」 エリゼはそう言うけど、顔が笑ってるじゃん。しかも剣を構えてるし……。レイニーは、エリゼの興奮を感じ取った。「どーぞー♪」「……う、うん。えいっ!」 エリゼは、シュパッ!と剣を振り下ろし、一撃で魔物を討伐できた。その剣筋は、見事なほどに鋭い。「わぁーい! 倒せた! ねえ、見た?見た?」 エリゼは嬉しそうに振り返り、満面の笑顔で聞いてきた。昨日の森とは雰囲気が違い、不気味な雰囲気もないし。その瞳は、達成感に輝いている。「うん。余裕そうだね〜!」 というか、さすがセリオスの娘で剣の扱いが慣れていて剣がぶれていないし、剣のスピードが早い。レイニーは、エリゼの才能に舌を巻いた。「まぐれだよー」 エリゼは謙遜してるけど、日々の訓練の成果だと思う。これだと、俺の出番が無くても良いのかもなぁ〜接待の魔物の討伐だなぁ。日頃の感謝の気持を込めて、エリゼに付き合おう♪ レイニーは、エリゼの成長を喜び、温かい気持ちになった。「次は、お兄ちゃんね!」「俺は、帰りで良いよ〜。二人で疲れちゃったら、強敵が出た時に困るでしょ〜」 エリゼが楽しそうだったので、今は遠慮しておこうかな。レイニーは、エリゼに花を持たせることにした。「あぁ〜そっかぁ。わかった! 行きは、わたしが頑
「はいっ! もちろんですっ♪ おとーさまっ」 レイニーは、そう言いながら国王に駆け寄り、抱きついた。それで、甘えておこうっと♪ 国王の服の感触が、幼い体に心地よい。「うむ。だが、キケンなことはするでないぞ!」 抱きつかれて、苦しそうな声を上げる国王の声が鳴り響いた。その声には、レイニーへの愛情と、それでも厳しさを教えようとする親心が感じられる。「はぁーい!」 レイニーは元気に返事をして、しばらく甘え続けて部屋に戻った。♢山への道のり ……翌日。 早朝から用意をしておいた馬車に乗り込み、エリゼと馬車で山へ向かった。 ちゃんとした送迎用の馬車で、王国の紋入りではなく普通の一般的な送迎用の馬車だ。一般人は……馬車には乗らないけどね。「わぁ! ちゃんとした馬車なんて初めて!」 エリゼが窓の外を眺めて、嬉しそうに声を上げた。前回乗ったのは兵士を護送するタイプの馬車だったしね。その瞳は、新しい体験に輝いている。「あはは……たぶん……10分もすれば具合が悪くなると思うよ……。この直に来る振動に揺れがキツイんだよね」 レイニーは、経験からくる予感を語った。「えぇ〜楽しいじゃん♪」 エリゼが、左右の窓に行ったり来たりして楽しそうに過ごしていた。その無邪気な姿に、レイニーは頬を緩めた。 …………。 ………………「あ、あぅ……」とエリゼが声を上げた。馬車が道に転がっている石に乗り上げ、たまに大きな振動が直におしりと腰にくる。その衝撃は、馬車全体を揺らし、乗員の体を突き上げた。 ………………。







